
「The Road(ザ・ロード)」
コーマック・マッカーシー著
核戦争か何かで崩壊した地球、文明は滅び、法や秩序もなくなった。その日、生き延びるだけの食料すら見つからない。
そんな世界で何とか生き残った数少ない人々は人間らしさを捨てて無秩序な生活を送るようになる。
そんな世界でひたすら南に向かって歩き続ける父と子。
父は子を守るためならば心が鬼になっても構わないと思っている。それが人を殺すことになろうとも…。
息子はこんな世界に生まれていながらも純粋な心を持つ少年だ。
二人は南に向かえば今よりも暖かい場所で暮らせるかもしれない。そんな思いから旅を続ける。
ストーリーはとても淡々と進んでいき淡々と終わる。
しかし、とても重厚なストーリーであるのだ。
バックグラウンドはSFであるが、これは親と子のストーリーだ。SFという設定はあくまでも設定で親子のストーリーを映えさせるためであるとわかる。
現実の世界ではなくてSFという設定だったからこそ、人間の本質や親と子の関係、親の守りたいもの、子の純粋さが際立って見えてくるのだ。
そんな世界では娯楽も何もなくて毎日、わずかな食べ物を食べてひたすら南に歩くだけ。それなのにも関わらず2人の会話がとても秀逸なのだ。
現代が舞台ならば「学校はどうだった」とか「今日は何していたんだ」なんて会話が想像できる。
だが、毎日一緒に歩き続けるだけの生活ではそんな会話すらない。そんな2人には、どんな夢を見たくらいが精々なのだ。しかし、それでも2人の会話には親子の繋がりがあることが一目でわかる。
決して口数が多いセリフが出てくるわけではない。だが、芯が通っている人間であることがよくわかるのだ。この人間たちは作られた人間たちではなくて心があって血が通っている人間だ。そんな印象を受ける。
終末世界を描いた映画や本、漫画はたくさんある。自分も数多く見てきた。
無秩序で混沌とした世界。だが、人間たちは何人か生き残っており、そんな人間たちはコミューンのようなものを作り生活している。
そんな世界が簡単に想像できるが、実際は光が黒雲によって覆われた世界のように夢も希望もなくて、ただ食べるためだけに歩き続ける。
人間らしさも捨てて生き残るためならば人間の肉さえ食べる。
そんな世界なのかもしれない。
最後まで人間としての尊厳を捨てないこの親と子には人間らしさとは何なのだろうかと考えさせられた。
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