時空の水 / 平沢進
1988年12月、P-MODELとしての活動を"凍結"し、ソロ活動へと転向していった平沢進。
「時空の水」はソロ活動一作目となる記念的作品である。
P-MODEL時代の楽曲は聴いたことがほとんどないのでまったくわからないのだが、ソロへと転身してからは音楽的な縛りがなくなったことで、かなり自由になり音楽性の幅が広がったようだ。
それは#1."ハルディン・ホテル2と#2."魂のふる里"の2曲に顕著に現われている。
#1."ハルディン・ホテル"では異国情緒溢れるエキゾチックな楽曲である。アジアン・テイストに満ちており、平沢進の世界へと一気に誘われる。
#2."魂のふる里"は打って変わって日本的なバラード曲となっている。それもどこかミュージック・コンクレートっぽくて平沢進らしいバラードだ。
この2曲を見るだけでも音楽的な垣根はかなり低く構えられており、好きなことを好きなようにやっている平沢進の姿が見ることができる。それだけ本作は意欲的な作品と言えるだろう。
それ以降のトラックもかなり面白いものに溢れている。
#4."ソーラー・レイ"は本アルバムの中で最も面白いトラックだ。まったく理解できない歌詞で、サウンドもとても不思議なのだが、妙に頭に残る。
本作の中でも打ち込み要素はかなり強いトラックなのだが、どこかクラシックっぽくも聞こえる。
#5."仕事場はタブー"もかなり不思議だ。『仕事場はタブー ダッダッ』という印象的な歌詞、そしてヨーデルを使った歌が耳を引く。
一方、#9."スケルトン・コースト公園"では能を彷彿させるフレーズがあり、サウンド的にも尺八がメロディを紡いでいたりとタイトルはナミブ砂漠周辺を思わせるのに曲調は和で通している。
ラストを飾る#10."黄金"はケルト音楽である。
旋律が綺麗なトラックでアルバムの余韻に浸ってしまう。
こうして見ると収録されているトラックに含まれるジャンルも点でばらばらだ。なのにこれほどまでにアルバムとしての統一性を感じるのには恐れ入る。
本作は音楽で体験する旅のようにも感じた。
それも桃源郷を眺めているかのようなどこか不思議な世界をめぐっているかのようなそんな印象を受けた。
かなり実験的な作品に思えるが、同時にとても綺麗なアルバムだった。
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